主 文
原判決を次のとおり変更する。1 上告人らは、被上告人に対し、連帯して、一六八五万五六九二円及びこれに対する平成五年二月九日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
2 上告人A1は、被上告人に対し、三〇七七万五二九二円及びこれに対する平成五年二月九日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
3 被上告人のその余の請求を棄却する。
訴訟の総費用はこれを三分し、その一を上告人らの連帯負担とし、その余を上告人A1の負担とする。
理 由
上告代理人花岡康博、同村松靖夫の上告理由について一 本件は、被上告人が、後記貸金5及び6の借主又は連帯保証人である上告人らに対してその残元本四七六三万〇九八四円及び約定の損害金の支払を求め、予備的に後記貸金1ないし4の連帯保証人である上告人A1に対してその残元本四七六三万〇九八四円及び約定の損害金の支払を求める事案である。
争点は、債務者複数の根抵当権に基づき根抵当権者である被上告人が受領した配当金によりその被担保債権である本訴請求債権のうちどの部分が消滅するかという点であるが、上告人らは法定充当の規定により貸金5及び6に先に充当されると主張し、被上告人は充当の選択権を有する根抵当権者である被上告人が選択した貸金1ないし4に先に充当されると主張している。
二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は、株式会社D(以下「訴外会社」という。)及び上告人A1に金銭を貸し渡したが、その契約内容及び履行状況等は次のとおりである。
(一) 貸金1
借主訴外会社、連帯保証人上告人A1、貸付日平成二年一〇月三一日、貸付額二〇〇〇万円、利息年九・一パーセント、損害金年一四パーセント、返済期限同九年一〇月一〇日、訴外会社が同三年八月二九日に手形交換所の取引停止処分を受けたため約定により同日期限の利益を喪失し、同五年二月八日における債権額は元本一七七九万七三二二円、損害金三一一万二八二四円である。
(二) 貸金2
借主訴外会社、連帯保証人上告人A1、貸付日平成二年一一月二九日、貸付額三五〇万円、利息年八・九パーセント、損害金年一四パーセント、返済期限同五年一一月二五日、貸金1と同様の理由により同三年八月二九日に期限の利益を喪失し、同五年二月八日における債権額は元本二七〇万円、損害金三九万六七一六円である。
(三) 貸金3
借主訴外会社、連帯保証人上告人A1、貸付日平成三年二月二五日、貸付額三五〇〇万円、利息年九・二パーセント、損害金年一四パーセント、返済期限同一三年二月一〇日、貸金1と同様の理由により同三年八月二九日に期限の利益を喪失し、同五年二月八日における債権額は元本三二〇九万一八八三円、損害金五七四万八四〇三円である。
(四) 貸金4
借主訴外会社、連帯保証人上告人A1、貸付日平成三年二月二七日、貸付額二七〇〇万円、利息年九・二パーセント、損害金年一四パーセント、返済期限同一三年二月二〇日、貸金1と同様の理由により同三年八月二九日に期限の利益を喪失し、同五年二月八日における債権額は元本二六五七万三八一一円、損害金四七八万〇三七三円である。
(五) 貸金5
借主上告人A1、連帯保証人上告人A2、貸付日平成三年二月二七日、貸付額一五六〇万円、損害金年一四パーセント、返済期限同三年一〇月一八日、既に約定の返済期限が到来し、同五年二月八日における債権額は元本一五六〇万円、損害金二六七万七七四九円である。
(六) 貸金6
借主上告人A1、連帯保証人上告人A2、貸付日平成三年二月二七日、貸付額七〇〇〇万円、利息年九・二パーセント、損害金年一四パーセント、同三年三月から同一八年二月まで毎月末日限り元利均等返済、上告人A1が約定の割賦金の支払をせず被上告人からの書面による支払催告にも応じなかったため約定により同三年一二月六日に期限の利益を喪失し、同五年二月八日における債権額は元本六九二六万九五六二円、利息二二三万四八四四円、損害金一一四二万四七三三円である。
2 上告人A1と被上告人は、同上告人所有に係る第一審判決添付物件目録記載の不動産について、次の内容の根抵当権設定契約を締結した。
(一) 一番根抵当権
平成二年一〇月三一日設定
極 度 額 三〇〇〇万円
債権の範囲 信用金庫取引、手形債権及び小切手債権
債 務 者 訴外会社
根抵当権者 被上告人
(二) 二番根抵当権
平成三年二月二五日設定
極 度 額 二億円
債権の範囲 信用金庫取引、手形債権及び小切手債権
債 務 者 訴外会社及び上告人A1
根抵当権者 被上告人
3 被上告人は、平成五年二月八日、本件不動産について申し立てられた不動産競売事件の配当金として、一番根抵当権に基づき三〇〇〇万円、二番根抵当権に基づき一億一六七七万七二二八円を受領した。
4 被上告人は、同年九月三〇日、上告人らに対し、本訴請求債権のうち八円の支払義務を免除した。
三 原審は、右事実関係に基づき、次のとおり判断した。
1 債務者を訴外会社とする一番根抵当権に基づく配当金三〇〇〇万円は、その被担保債権である貸金1ないし4のうち、まず損害金の全額一四〇三万八三一六円に充当され、次いで元本七九一六万三〇一六円のうち一五九六万一六八四円に充当される。
右充当後の貸金1ないし6の債権額は、次のとおりとなる。
(一) 貸金1ないし4元本合計六三二〇万一三三二円
(二) 貸金5元本一五六〇万円、損害金二六七万七七四九円
(三) 貸金6元本六九二六万九五六二円、利息二二三万四八四四円、損害金一一四二万四七三三円
2 債務者を訴外会社及び上告人A1とする二番根抵当権に基づく配当金一億一六七七万七二二八円は、債務者を訴外会社とする部分及び債務者を同上告人とする部分に債権額に応じて案分され、それぞれの部分によって担保される複数の債権間においては法定充当の規定に従い充当される。
3 債務者を訴外会社とする部分によって担保される債権は貸金1ないし4で、その額は六三二〇万一三三二円であり、債務者を上告人A1とする部分によって担保される債権は貸金5及び6で、その額は一億〇一二〇万六八八八円であるから、二番根抵当権に基づく配当金一億一六七七万七二二八円を各債権額に応じて案分すると、債務者を訴外会社とする部分への案分額は四四八九万一一六四円となり、債務者を同上告人とする部分への案分額は七一八八万六〇六四円となる。
4 債務者を訴外会社とする部分への案分額四四八九万一一六四円は、弁済期が同時に到来した貸金1ないし4(元本合計六三二〇万一三三二円)について各債権額に応じて案分充当され、右充当後の貸金1ないし4の債権額の合計は、元本一八三一万〇一六八円となる。
5 債務者を上告人A1とする部分への案分額七一八八万六〇六四円は、まず貸金5及び6の利息、損害金の全額(一六三三万七三二六円)に充当され、次いで先に弁済期の到来した貸金5の元本の全額(一五六〇万円)に充当され、更に貸金6の元本六九二六万九五六二円のうち三九九四万八七三八円に充当され、以上の充当後の貸金6の債権額は、元本二九三二万〇八二四円となる。
6 よって、被上告人の上告人らに対する請求(貸金5及び6についての請求)は上告人らにつき二九三二万〇八一六円(八円は免除)及びこれに対する平成五年二月九日以後の約定の損害金を、上告人A1に対する予備的請求(貸金1ないし4についての請求)は一八三一万〇一六八円及びこれに対する同日以後の約定の損害金を、それぞれ認容すべきである。
四 しかしながら、原審の右三の1及び2の判断は正当として是認することができるが、同3以下の判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
1 不動産競売手続における債務者複数の根抵当権についての配当金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りない場合においては、配当金を各債務者に対する債権を担保するための部分に被担保債権額に応じて案分した上、右案分額を民法四八九条ないし四九一条の規定に従って各債務者に対する被担保債権に充当すべきである。
けだし、債務者複数の根抵当権は、各債務者に対する債権を担保するための部分から成るものであるが、右各部分は同順位にあると解されるから、配当金を各債務者についての被担保債権額に応じて右各部分に案分するべきであり、債権者の選択により右各部分への案分額が決められるものと解する余地はなく、また、同一の債務者に対する被担保債権相互間においては、法定充当の規定により右案分額を充当することが合理的であるからである。
原審の判断のうち以上と同趣旨をいう部分は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
2 右1における案分の基礎となる各債務者についての被担保債権額を算出する場合には、ある債務者に対する債権の弁済によって他の債務者に対する債権も消滅するという関係にある複数の被担保債権があるときにおいても、いずれの債権もその全額を各債務者についての被担保債権額に算入するべきであって、右算入額の合計額が根抵当権者が弁済を受けることができる額を超えてはならないものではない。
けだし、根抵当権者が右のような関係にある複数の債権を有し、そのいずれについても根抵当権を有するという地位は、右1の案分をするに当たっても考慮されるべきである上、右のような複数の被担保債権の相互関係は、本件のような主たる債務者に対する債権とその連帯保証債権に限られるものではなく、同一の約束手形の複数の裏書人に対する手形金債権である場合や約束手形の振出人に対する手形金債権と右手形の割引依頼人に対する手形買戻請求権である場合など多種多様な場合があり得るところ、根抵当権者が弁済を受けることができる額を超えて被担保債権が算入されることがないような基準をあらゆる場合について策定することは事実上困難であって、いずれの債権もその全額を算入する扱いが簡明であり、問題の性質上合理的であるといえるからである。
これを本件について見るに、原審の適法に確定したところによれば、上告人A1を借主とする貸金債権である貸金5及び6(一億〇一二〇万六八八八円)のほか、訴外会社を借主とする貸金債権である貸金1ないし4についての同上告人に対する連帯保証債権(六三二〇万一三三二円)も二番根抵当権のうち債務者を同上告人とする部分によって担保されているものというべきであるから、同上告人に対する被担保債権額に右連帯保証債権の額を算入しなかった原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。
3 以上の説示に従い二番根抵当権に対する配当による被担保債権の消滅について検討するに、訴外会社に対する被担保債権の額は貸金1ないし4の合計額六三二〇万一三三二円であり、上告人A1に対する被担保債権の額は貸金1ないし6の合計額一億六四四〇万八二二〇円であるから、配当金一億一六七七万七二二八円を各債権額に応じて案分すると、債務者を訴外会社とする部分への案分額は三二四二万六〇四〇円となり、債務者を同上告人とする部分への案分額は八四三五万一一八八円となる。
債務者を訴外会社とする部分への案分額三二四二万六〇四〇円は、弁済期が同時に到来した貸金1ないし4(元本合計六三二〇万一三三二円)について各債権額に応じて充当され、充当後の債権額は、貸金1ないし4の元本三〇七七万五二九二円となる。
債務者を上告人A1とする部分への案分額八四三五万一一八八円は、法定充当の規定に定めるところと異なる充当をするべき事由につき何らの主張、立証のない本件においては、まず貸金5及び6の利息、損害金の全額(一六三三万七三二六円)に充当され、次いで同上告人にとって弁済の利益が多い貸金5及び6のうち先に弁済期の到来した貸金5の元本の全額(一五六〇万円)に充当され、更に貸金6の元本六九二六万九五六二円のうち五二四一万三八六二円に充当される。
以上の充当後の債権は、貸金6の元本一六八五万五七〇〇円及び貸金1ないし4についての連帯保証債権となる。
そうすると、被上告人の上告人らに対する請求(貸金5及び6についての請求)は上告人らにつき一六八五万五六九二円(八円は免除)及びこれに対する平成五年二月九日以後の約定の損害金を、上告人A1に対する予備的請求(貸金1ないし4についての請求)は三〇七七万五二九二円及びこれに対する同日以後の約定の損害金を、それぞれ認容すべきである。
以上によれば、原判決の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れず、右説示に従い原判決を主文のとおり変更すべきである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
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